セロの声の主
「お前は一体何を泣いているの。ちょっとこっちをごらん」今までたびたび聞こえてた、あの優しいセロのような声が、ジョバンニの後ろから聞こえました。
 ジョバンニは、はっと思って涙を払ってそっちを振り向きました。さっきまでカムパネルラの座っていた席に黒い大きな帽子をかぶった青白い顔のやせた大人が、優しく笑って大きな一冊の本を持っていました。
「お前の友達がどこかへ行ったのだろう。あの人はね、本当に今夜遠くへ行ったのだ。おまえはもうカムパネルラを探しても無駄だ。」
「ああ、どうしてなんですか。ぼくはカムパネルラといっしょにまっすぐに行こうと言ったんです」
「ああ、そうだ。みんながそう考える。けれどもいっしょに行けない。そしてみんながカムパネルラだ。お前が会うどんな人でも、みんな何べんもお前といっしょにりんごを食べたり汽車に乗ったりしたのだ。
 だからやっぱりお前はさっき考えたように、あるゆる人の一番の幸福を探し、みんなといっしょに早くそこへ行くがいい。
 そこではかりお前は本当にカムパネルラといつまでも一緒に行けるのだ。」

銀河鉄道の夜
9.ジョバンニの切符より
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カットbyレイス


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